総合危機管理学会(SIMRIC)通信 No.11   2020/12/16

 SIMRiC通信では、危機管理に絡む多様なエッセイやコラムを、会員の皆様から募集しております。論文にする前の研究ノート的な内容でもかまいません。是非、事務局まで、気楽にご投稿いただければと存じます。

◇コンテンツ◇

1 【総合危機管理学会 コラム】
・ コロナで変わる採用 ~ジョブ型雇用が抱える懸念〜 (木村 栄宏)
2 【総合危機管理学会からのおしらせ】
・ 次回学術集会について(第5 回学術集会及び総会の中止について)
・ 学術論文投稿のお願い
3 【関連学会・関連イベント情報】

【総合危機管理学会 コラム】


コロナで変わる採用 ~ジョブ型雇用が抱える懸念〜      

木村 栄宏(千葉科学大学 危機管理学部)

 

 全国の大学等では、就職を控える例えば3年次生だけでなく1・2年次生にとっても、コロナ禍の中で自分たちの就職は今後どうなるのか、漠然とした、あるいは差し迫った不安をかかえている様子がとみに伺われる。

 人の広域移動や交流が自粛・制限される中、依然としてキャンパスに立ち入れない大学も多々ある中で、逆に勉学に集中専念できるとはいえ、部活動や留学、アルバイト、民間企業をはじめとする様々な共同プロジェクトなどがなかなか行われにくくなり、学生にとって、就職時にアピールすべき「学ちか(学生時代に力を入れたこと)」や「自己PR」に支障が出る、第2の就職氷河期がくるのかというマスコミ報道もあり、「自分たちは普通に就職できるのか」、という不安が多々生じている次第だ。

 一方、そうした中、社会では新型コロナの感染流行拡大とともに、現在、「ジョブ型雇用」が今後進行する、あるいは進行すべきである、日本は変わるべきだ、という議論がなされている。

 ジョブ型雇用とは、従来の日本型雇用に対するもので、欧米では従前から当然となっている雇用形式である。具体的には、日本型雇用の代名詞「メンバーシップ型(ジョブローテーション、職能給、転勤あり、長期雇用等が特徴)」から、欧米で主流の「ジョブ型(職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)」への転換が進むというものだが、換言すれば、日本が強みを発してきた適材適所型から適所適材型へ雇用形態が変わるということだ。

 まず、現状をみよう。「働き方改革」骨子で示された「賃金引上げと労働生産性向上」「長時間労働の是正」「柔軟な働き方」「子育て・介護等と仕事の両立」「外国人材受入れ」等々、そしてテレワークの導入支援や副業・兼業の推進、女性のリカレント教育支援について、withコロナにより、実際にそれらは進展したか・進展するのか。これを評価する際、勤務地と勤務内容によって、とらえ方は大きく異なる。(東京をはじめとする大都市で働く人や組織にとっては、通勤地獄からの解放、オフイス費用や交通費不要化、オンライン対面普及でも録画機能による商取引におけるエビデンス化によるトラブル回避可能化、リアル職場で仕事を余儀なくされることにより生じる無駄な作業からの解放による生産性向上、副業促進など、目に見える効果が生じている。

 一方、テレワークも当然に労働基準法が適用され、厳正な労働時間管理が必要だが、テレワークゆえの法令等違反(情報漏洩、ネットトラブル、コロナハラスメント等の発生)といった負の側面も新たに生じている。また、地方を基盤に働く元々地元経済に依存し、職住隣接型あるいは以前からサテライト形態勤務の人にとっては、withコロナは現状維持のままといえる。

 職種で考えた場合、特に生活消費関連産業を中心とする相対型が基本の企業では「人と会う、人とリアルに接点を持つ」意義と必要性はなくならないため、即生産性向上とはならない。自治体行政でも基礎自治体と広域自治体では取り組み方も連携による効果も異ならざるをえない。

 では、テレワークとジョブ型が一緒になった場合の問題点は、ジョブ型採用のメリットがデメリットになることにある。人材育成や研修によるスキルアップは各自が自分で行うことになり、企業内人材育成は無く、コミュニケーション不全による不祥事発生の蓋然性リスクを内包する(企業等へのロイヤリティが生じないことを含め)。

 次に、新人採用時から対応する場合だが、適応可能職種が限られる(事前インターンシップにコストと目利き力が必要なこと)、個人にとってはキャリアデザインにコストがかかることから従来以上に個々の人生の格差が拡大することなどが考えられる。

 危機管理の観点からは、組織の成員として必要な要素(例としてメンタルタフネス、危機管理・リスク感覚(リスクセンス)、交差トレーニング経験)に富む人材が欠けた組織になる懸念があることだ。

 つまり、何を言いたいかというと、withコロナ時代の働き方とは、採用側の企業等のスタンス(仕事はすべてジョブ型と割り切るか、一企業ではなく日本社会全体を見据えた育成も視野に入れた採用を考えるか等)により、今後の日本社会で働く人々の質に中期的なマイナスの影響を与えるリスクがあるということだ。

 かつて、筆者は、ちょうど日本でも多様な働き方や格差が議論されてきた2007年に、下記の文章を書いたことがある(自由が丘産能短期大学紀要第40号「企業の活性化-インデペンデントコントラクター(IC)の活用を通して-」)。

 「かつて会社は、社員にとって、暗黙の契約と信頼の上に長期的な安定生活を与えてくれる組織だった。しかし、現在は多様な価値観を持つ個人にとって、会社は「多様な就業形態を提供する組織のひとつ」という位置付けに変化している。互いの関係は相対化し、緊張関係が増したと同時に、社員同士においても、会社内におけるコミュニケーションが薄れ、乾いた関係になりつつある。一方では、バブル崩壊後の景気低迷に苦しんだ日本経済は、業績主義、成果主義、リストラ、人材の市場価値、コンピテンシー等々、様々な人事制度や考え方が日本へ紹介されたことを契機に、様々な試行を行い、会社と社員にとって、「社員であること」の意味を問う局面に遭遇するようになってきた。忠誠心の欠如、個人主義、正社員と非正社員間の軋轢等々、組織と個人に関わる様々な問題が生じているにかかわらず、企業はそれらに対して有効に対応できていない。そんな中で、ICという生き方が注目を浴びるようになっていると考えられる。ICの先駆的な動きとしては、リクルート社の「フェロー制度」や、日本IBM社のいわゆるフリー契約制度(認定プロフェッショナルや、Professional Contract、Self-Employed等)の導入が挙げられる。前者は、元々30代になると転職や独立が当たり前と言う組織風土のリクルートにとって、スーパーパーソンについては、引き続き緩やかな関係を保ちつつ、個人の独立も阻害しない、という制度である。一方、後者は、IBM社がパソコン事業からの撤退という、グローバルな意思決定を元に、雇用調整を行なう必要が生じたことから、導入した制度という解釈が可能であり、個人に会社からの独立を促すと共に、会社と個人が対等な関係(契約)を結ぶことを遂行した例と捉えられる。」

  相当の時間が経った今、現状はどうなっただろうか。コロナ禍の中で、「JOB型雇用」が「成果主義の賃金・人事制度」の言い換えとして導入していく企業が出ているが、本来の「JOB型雇用」は20年前の「成果主義」とは違うものだ。採用時に示される職務記述書(ジョブディスクリプション)に合致した技能を持った人材が雇われるというものであり、成果主義と違い、成果評価や賃金査定とはリンクしない。欧米系コンサル会社でよく聞くような「アップ・オア・アウト」ではなく、企業内でそのジョブが環境変化等で不要になった場合でも企業内の別の仕事の紹介・打診が必要であり、企業側が簡単に解雇できるものではない。

 つまり、採用時にジョブ型雇用で優秀な人材を雇えたとしても、ますますVUCAが増す今の状況の中で、技術も制度社会も代わる中、決められた職務の中で本人も企業側もいずれ満足が続かなくなり、

 個人は企業を見限りスキルアップを磨き(企業側はメンバーシップ型雇用と違い、ジョブ型雇用に対して研修等に資金を注がないか注げない)、戦略的なアウトソーサーの道を選んでいくという未来が予想される。

 リービッヒの最少律をわかりやすく図示した「ドベネックの桶」(植物の生長速度や収量は、必要とされる栄養素や水・日光などの中で、与えられた量のもっとも少ないものにのみ影響されることを、桶とそれを構成する木の板の高さで表したもの。不足している養分の板は低いままであれば、結局、そこから水が漏れていってしまい、いつまでたっても桶の水は最も低いところで留まるというもの)のように、日本社会全体で見た場合には、一部の大企業だけがたとえ本来のあるべきジョブ型雇用を推進したとしても、全体の社会的価値、個々人の幸福向上には結びつかないのではないか。

 前述の3点を鑑みた場合、企業側も採用される個人側もこのメリット・デメリットを十分認識した上で戦略を築いてほしい。今こそ、現在全く聞くことのないIC(もちろん野窓、テレワーカー、リモートワーカー、ワーケーション等々様々な働き方及び形態の進化系に包摂されたといえようが)の在り方を見直す機会なのかもと考え、このコラムを書いてみた。


総合危機管理学会からのお知らせ

【第5回学術集会及び総会の中止について】

総合危機管理学会  会員各位

 新型コロナウイルスの感染拡大する状況を鑑み、2020年5月23日(土)に予定されておりました第5回学術集会及び総会の延期を発表しておりましたが、今年度の学術集会開催を中止することに決定いたしました。学術集会は、1年間の延期ということで、2021年5月ごろ開催する予定で現在調整を行っております。詳細が決定しだい、改めて会員の皆様にはご連絡させていただきます。

 会員各位にはご不便をおかけしますが、ご理解とご協力をお願い申し上げます。

 

【学術論文投稿のお願い】

 学会誌「総合危機管理」では、随時学会員の皆様よりの学術論文の投稿を募集しています。ご投稿いただいた学術論文は査読手続きを得て、掲載が受理されたものより随時「総合危機管理」へと掲載いたします。投稿規定などは学会ホームページ(http://simric.jp/journal/information-authors/)で公開しておりますのでご確認ください。皆様の論文投稿を編集委員一同お待ちしております。

関連学会・関連イベント情報

「日本学術会議主催学術フォーラム・第 11 回防災学術連携シンポジウム」
“東日本大震災からの十年とこれからー58 学会、防災学術連携体の活動ー”
・主催:日本学術会議 防災減災学術連携委員会、土木工学・建築学委員会、防災学術連携体
・日程:2021 年 1 月 14 日(木)10:00~18:30
・場所:東京医科歯科大学 鈴木章夫記念講堂(150 名)、およびオンライン(1,000 名)
・詳細:https://janet-dr.com/060_event/20210114.html


「未来社会と企業のゆくえ」(オンライン開催)
・主催:東京海上日動火災保険株式会社
・日程:021 年1 月26 日(火)14:00~17:10
・詳細:https://www.tokiorisk.co.jp/seminar/2020/2020future.html#anc-01


「日本健康相談活動学会第 17 回学術集会」(オンライン開催)
「健康相談・健康相談活動の管理と教育の一体化」-with コロナ時代に養護教諭は何をするべきかー
・主催:日本健康相談活動学会
・日程:2021 年 2 月 18 日(木)~2021 年 2 月 23 日(火)
・詳細:http://jahca.org/top/gaku/

「地区防災計画学会第 7 回大会」(オンライン開催)
・主催:地区防災計画学会
・日程:2021 年 3 月 6 日(土)9:30~17:30(予定)
・詳細:https://gakkai.chiku-bousai.jp/ev210306.html

「仙台防災未来フォーラム 2021 “東日本大震災から 10 年 よりよい未来のために”」
・主催:仙台市
・日程:2021 年 3 月 6 日(土)~7 日(日)
・場所:仙台国際センター展示棟ほか
・詳細:https://sendai-resilience.jp/mirai-forum2021/

「医療事故調査教育セミナー2021」
・主催:国際リスクマネージメント学会
・日程:2021 年3 月11 日(木)~12 日(金)
・詳細:http://www.iarmm.org/J/HAS2021/

「第 25 回日本災害医学会総会・学術集会」(オンライン開催予定)
「善・真・美の探求」
・主催:日本災害医学会
・日程:2021 年 3 月 15 日(月)~17 日(水)
・場所:国際医療福祉大学 東京赤坂キャンパス
・詳細:https://site2.convention.co.jp/26jadm/index.html

 


※ご住所や連絡先,ご所属や職名,書類等送付先の変更・訂正は,郵便,メール,または
Faxで下記の学会事務局までご連絡ください。
-- -- --
総合危機管理学会 事務局
千葉県銚子市潮見町3 千葉科学大学危機管理学部内
email info@simric.jp, tel 0479-30-4636, fax 0479-30-4750
http://simric.jp/